弁護士・堤浩一郎「過労死・過労自殺問題に取り組んで20年」



過労死・過労自殺に取り組んで20年 弁護士 堤浩一郎

私は約20年間,過労死・過労自殺問題に取り組んできました。 そのなかで,とても印象深い事件は次の2つです。

1つは,「過労死110番」が発足した1989年に相談を受けた事件で,スーパーの青果部門で働いていたある男性労働者が,1年間に363日間(それも連 続で)働いて死亡したという事件です。私はこの事件は業務上認定がなされるものと,絶 対的に確信していました。 しかし,この事件は何と業務外認定を受けてしま ったわけですが,遺族の奥さんは審査請求を結局断念しました。その理由は,一人娘が精神不安定になってしまっ たから,これ以上闘いは続けられないということで,私にとっては非常に残念な事件でした(この事件は,現在だったら間違いなく業務上認定がなされた筈で す)。

2つめは,東京海上支店長付の運転手さんが脳梗 塞に発症したという事件です。 この事件は,横浜地裁で勝訴,東京高裁で逆転敗 訴,最高裁で逆転勝訴という劇的な経過を辿りました。この事件の最大の成果は,最高裁の逆転勝利判決 により厚生労働省が過労死の認定基準を改正するという大きな契機になったということでした(その後,過労死の業務上認定件数は飛躍的に増大していった)。

過労死・過労自殺問題は20年位前に比べれば,業務上認定件数は飛躍的に増大しています。 しかし,個々の具体的事件ではなかなか成果が上 がらないというのも実情です。現に私もこの数年間,連続で約10回位業務外認 定を受け,苦闘を続けていました。 ところが,今年は過労死に関する2つの事件で業 務上認定を勝ち取ることができました。業務上認定を勝ち取ることにより,遺族の無念も 晴れることになるし,また遺族の生活補償にもつながるわけで,この2つの事件で勝利したことは大変嬉しいものがありました。

ところで,この間我が国は新自由主義,市場経済主義,規制緩和,「官から民へ」ということが声高に叫ばれているなかで,貧富の差が益々拡大しています。そ のため,労働条件が不安定になる,就職口もな かなかない,こういう不安定な状況が生まれています。 そういう状況のなかで,過労死,過労自殺の問題も大変懸念されています。 私は現在でも多くの過労死・過労自殺事案を抱え ているため,これからも奮闘しなければと,固く心に誓っているところです。